1999年08月16日

8月16日

 6時に仕事をあげて、病院に参じる毎日。ようやく違和感が無くなってきた今日この頃。

 今日病室を覗くと、母はベッドに腰掛けて食事を摂っていた。随分顔色も良くなったモノだ、あの時に比べて。「今日は100メートル歩いたよ」日赤南館はよく出来ていて、廊下一周200メートルなんだそうだ。しかしさ、それじゃあまだまだ。無理せずにゆっくりやりなよ。「糖尿病の人と同じ給食にして貰ってるのよ、ダイエットできるかなと思って」わざと笑って見せる。強い人だ、うちの母は。
 最近はすっかり同室の患者達とも仲良くなった。はっきり言ってオバアチャンばかりで、僕が行くと皆嬉しそうに迎えてくれ、あれ喰え、これ飲めと勧めてくれて、目の前で一気に食べ尽くしてみせると大層喜んでもらえる。僕の事は「いい息子さん」で評判なんだそうだ。母が嬉しそうに話した。
 朝の早い患者達の間で、早朝のラジオの聴取率が高いことも特筆モノである。目を閉じたままでのんびり聞けるのがいいんだそうだ。おかげで僕はいつも質問責めで、「ミキューってどんな字書くの?」だの、「オダガワさんて男前なんでしょ?」だの。それはそれで僕は楽しいから構わないのだが、「サインが欲しい」はちょっとねえ。まあそのうち貰ってきますよ、と軽く言いながら、早朝の高齢者向けの番組の方向性をふと思う。
 なんだか見舞いに行っても喋りっぱなしの僕は、今日もコーヒー2本とバウムクーヘン、フルーツ缶詰をクリアして、病室を後にしようとしたその時。
 「アンタ今日は誕生日やな。」横になった母が言った。「ほんまに大きなったなあ」と言いながら僕に小遣いを持たせようとしたのだ。僕はドキリとした。この人はずっとその事を考えていたに違いないと感じた。自分の29回目の誕生日などどうでもいいやと思っていた僕は、目が汗をかきそうになって逃げるように病院を後にした。母よ、僕は幾つになっても貴方の子だ、間違いない。そして僕はとても幸せなのだきっと。
 誰かを誘って飲みにでも行こうと思っていたのだが、気が変わった。コンビニで安いボトルを数本買い、溜まっていた未開封のCDを一枚づつ聞きながら夜更けまで独りでまどろんだ。


Posted by たおまさ at 17:46