1999年05月11日

小野小町伝説

 花のいろは うつりにけりな いたづらに
 わが身世にふる ながめせしまに

 小野小町の墓が和歌山にあると聞き、こりゃ行かなきゃ、いう事で訪ねてみた。

 小野小町。平安時代の女性で、六歌仙のひとり、そして絶世の美女だったと言われている。そんな彼女は36歳にして宮中を退き、今の秋田県雄勝町に帰郷して庵を結び、世を避け自像を刻みつつ92歳で亡くなったという。しかし真実がどうだったかははっきりしなくて、全国各地に小野小町伝説は残されている。

 そんな伝説の一つが熊野古道の紀の関(大阪和歌山府県境)を越えてすぐの山口王子に残っていた。晩年の小野小町が熊野参詣の途中、この地で息を引き取ったというのである。

 小野小町は絶世の美女だけに、言い寄る男も大勢いた。有名なのは深草少将の話、いわゆる「深草少将の百夜通い(ふかくさしょうしょうのももよがよい)」であり、能の「通い小町」の題材にもなっている。深草少将から愛を告白され困惑した小野小町は、「百夜通って、川の土手に毎日一株ずつ芍薬を植えて百株になれば貴方の意に従う」と答えた。それを聞いた深草少将は、雨の日も風の日も通い芍薬を植え続けたが、残念ながら99夜目にして古くなっていた橋とともに大水で流されてしまったというのである。ああ、無情。

 山口王子の小町伝説の真偽を語るのはナンセンスだ。小町はきっと様々な諸行無常を胸に熊野に詣でたに違いない。

 近所に住む人に案内されて訪れた小野小町の墓は民家の裏手の高台にあった。古びた丸い墓石が歴史を語る。静かに手を合わせ絶世の美女を偲んでみた。平安の夜空にも今夜と同じような星が瞬いていたのだろうか。

 絵本「小野小町」


Posted by たおまさ at 14:30