1997年12月30日

今年の最後に本当の話を

きょうは君に本当の話をしよう。

その日僕は岡山に居た。
西宮で仕事があったから、
そのまま足を延ばしたんだ。


実は僕,4年前に岡山である女性と別れた。
別に付き合っていたわけじゃないんだけど、
いつも一緒だった彼女でね。
そんな彼女と夜,いつものように
いつもの西口の喫茶店でお茶した後,
「30分ほど待ってて」て言って店を出た僕。
そのまま街を出た。
まるで夜逃げみたいだったよ。

その日僕が岡山に行った理由は
ただなにげなく。
懷かしさではなく、本当に勝手に足が向いたんだ。

そして僕が訪れたのは、西口の喫茶店。
今でも学生達がたむろしてて、
無愛想さが有難い髭のマスターも健在だった。
マスターは少し驚いた樣子だったけど、
珍しく微笑んで「よう」といった。
僕は少し会釈をして、雑誌の棚の影の
当時、僕の指定席だった席に座った。
默っててもアイスコーヒーが出てきた。
それにメモが添えられててね、
「あの後あのこ泣いてたよ」って書いてあった。

その店でどれくらいの時間を過ごしただろう。
外はもう夕方になっていた。
授業の合間を潰す学生達はもう居なくて
店には僕ひとりだった。
3杯目を飲み終えた頃,
入口のドアが開いて一人の女性が入ってきた。
目が合った瞬間、彼女だと気付いたんだ。

彼女は僕に会釈をした後
あの頃のようにマスターに軽く手を挙げて
僕の前に来た。
「髮形変えたんだね」と僕が言うと彼女は
「4年遅刻よ」と言って笑った。

それから色々な話をした。
「あの時三ノ宮で会ったよね」というと、
「この秋結婚するの。N君と。覚えてる?」って
遮るように言った。
N君は、僕らの当時のツーリングチームの中心で、
ブロス600に乗ってた。
僕らは「隊長」って呼んでた。
彼女とは同じゼミだったんだよな。
そうだね、N君は三ノ宮出身だったな。

僕は、彼女に、君の事を話したよ。
彼女、にこにこしながら聞いてた。
僕も夢中になって話した。
話してる途中で,
今日は彼女の誕生日だって事に気付いたけど、
僕は触らずに置くことにした。
彼女もおくびにも出さなかったしね。

店を出るとき、マスターがニヤリと笑って
僕と彼女に店のコースターをくれた。

別れ際、そうだなあ、駅前のテレビで広島阪神戦が
ちょうど終わるところだったから9時過ぎかな。
彼女から「中で読んでね」って
折りたたんだ紙を渡された。
僕は「おめでとう。幸せにな。」って
精一杯笑って見せた。
彼女が全身で手を振っているのを
見ない振りしながら改札を抜けたんだ。

新幹線の中で紙を開いたら中には
「ありがとう がんばってね さようなら」と
書いてあった。


僕が次に岡山に行くときは
君も連れていきたいんだ。

マスターを紹介したい。



Posted by たおまさ at 04:17