1997年08月09日

始発列車の光景

「一番好きなはずのお父さんよりも、もっと好きな男性と出会い、反対を押し切って男性のもとへ道行く。」

 がらがらの始発列車の中で、私の正面に座った涙目の女性は私に、こんな彼女のバックストーリーを想像をさせた。

 始発列車には何度も乗ったことがあるし、そんな人を何度も見かけたこともある。男であれば、どんな事をしてでも、悲しさというものは乗り越えていけるが、女性が頑張っている姿は哀しく愛しい。いままで育ててもらった恩もあるだろうし、愛情も無論あろうし、止むに止まれず、その恩愛を踏み越えて、自分の愛を貫こうとする女性の姿は見知らぬ訳ではない。

 列車というのは、おそらく、その輝いている窓以上の人生をその列車の中に包括していて、それぞれが、それぞれに、ある意味では辛い時間をもっている。おそらく着のみ着のままで家を出て来たであろう彼女の膝の上にある荷物、それはたとえ、生活がどんなに裕福になっても変わることはないだろう。人間が手に持てる荷物の量なんてものは、おそらく限られている。




Posted by たおまさ at 03:48