1997年07月18日

マグリットの石

 私が、人生で最初に芸術に対して感動を覚えたときの事を思い出した。

 あれは確か、中学2年だったかな。美術の教科書に載っていた、「マグリットの石」に対してである。マグリットと言うのは御存じ、画家のルネ・マグリットのこと。「マグリットの石」というのは、おそらく彼の代表作であろう。つうか、他の作品は知らない。正式な作品名は「ピレネの城」だな。あの絵が、現代人の包括している不安を表しているという、誰かの解説を呼んだときに、思わず膝を打ったものだ。まさに我々は、海の上の上空に浮いている岩の上のお城に住んでいるようなものではないか。これは、日常生活の上で、常に感じている危機観である。

 しかし、あの絵、描かれた当時はどんな評価を受けてたんだろうか。

 はっきり言って、かつて我々の前を走っていた何人かの英雄達の業績、おそらく、その時代を超えた素晴らしい業績は、その時代に於いては、受け入れられないような荒唐無稽な物であったと思う。例えば、坂本竜馬が日本が生き抜くには商社だと叫び続け、150年を経て、日本経済を支えているものが商社であるように、その時々に、余りにも時代を超えた事実というものは、その当事者達には受け入れられないものなのである。こういった悲劇(喜劇)は、現実にも沢山起こりうる。つまり、自分が信じていることを大声で言うときに、現実の声に押し戻されるのを恐れてはいけないのではないか。正しいと思うことは、きちんと正しいと主張し続ければいいし、それが、現代の世の中に受け入れられるか受け入れられないかは時の運であって、そこで自分を曲げるということは、実は、負けなのではないか。

 まあ、そうは思っても、人間と言うのは弱いもので、冷たい目で見られるよりは、優しく笑ってほしいから、つい嘘をつく。本当は右だと思っていても、みんなが左へいけば、左へつき合っていく。本当は左だと思っていても、みんなが右に傾けば、右の方へ引っ張られる。これが、悲しい我々の性だけれども、真の勇気ある者というのは、自分の道をまっすぐに貫いて行くものなんだろう。


Posted by たおまさ at 01:13